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仙台高等裁判所 昭和62年(う)76号 判決

本籍

盛岡市住吉町二八番地

住居

同市南仙北一丁目二二番六八号

会社役員

吉田軍治

昭和一七年八月二八日生

右の者に対する所得法違反被告事件について、昭和六二年三月一三日盛岡地方裁判所が言い渡した判決に対し、弁護人から控訴の申立てがあったので、当裁判所は、検察官楠原一男出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人岩崎康彌作成名義の控訴趣意書に、これに対する答弁は、検察官楠原一男作成名義の答弁書に、それぞれ記載されているとおりであるから、いずれもこれを引用する。

所論は、要するに、原判決の量刑は刑の執行を猶予しなかった点において刑の量刑が重きに過ぎ不当である、というのである。

そこで、記録及び原裁判所において取り調べた各証拠を精査して検討するに、本件は、原判示のとおり、ゲーム機械のリース及び販売業を営む被告人が、昭和五七年から昭和五九年までの三期の納税期にわたり、売上金の一部を除外し架空人名義で預金するなどの不正手段によって所得を隠して脱税し、その合計額は一億五七二二万八五〇〇円にも達したという事案である。その脱税額が一億五〇〇〇万円を越える高額に及び、ほ脱率も約九九・五四七パーセントにも及んでいることの外、被告人は、原判示「確定裁判」記載のとおり、昭和五八年九月二三日常習賭博罪により懲役一年、三年間刑の執行猶予に処せられながら、その執行猶予期間中に原判示第二、第三の犯行を敢行したもので、右確定裁判の事案も、レストラン経営者である共犯者らと共謀のうえ、共犯者らの経営する店舗にポーカー遊技機等のゲーム機を被告人が賃貸して設置し、常習として賭博を行なったというのであり、本件が、右常習賭博の犯行期間を含むその前後にわたり、被告人が、将来の事業資金を蓄えようとの目的から、同種のゲーム機賃貸等の営業によって得た売上金収入について脱税した事案であることに照らすと、罪質こそ異なるものの、いずれも被告人の営業に関し、その営利を目的として行われたものということができ、営利のために法秩序を破るという犯罪性向は改まらなかったものといわざるを得ず、更に右常習賭博で検挙された際、昭和五八年夏ころ、担当の弁護士から、被告人の預金額等に照らして所得税の申告が過少である旨の指摘を受け、自らの非を是正する機会を与えられながら、僅かに同年九月一二日付で昭和五七年分の申告納税額を八七九万五〇〇〇円とする修正申告をなし、また、その後家族名義の預金についての申告漏れが発覚し、昭和五九年二月一日付で昭和五七年分の申告納税額を更に一八七五万七〇〇〇円とする再修正申告をなしに止まり、それらの機会を捉えて架空人名義での預金分をも含めて修正申告することもなさず、今次国税当局の強制査察がなされるまで、その余の所得を秘匿したばかりか、次年分以降についても極端な過少申告を続けた犯情は甚だ芳しくなく、その刑責は軽視することを許されない。

してみれば、被告人は、本件発覚後においては、遅ればせながら、反省の態度を示して国税当局の調査に協力し、その本税全額の支払いを終え、引き続き重加算税等について分納中であること、前件の執行猶予期間も本件起訴当時において既に満了していること、被告人は、一家の主柱であって、被告人が実刑に処せられると家族の生活にも深刻な影響を来すおそれが大きいこと等所論指摘の被告人の利益に考慮すべき諸事情をできるだけ参酌してみても、もとより本件が刑の執行猶予を付すべき事案ではなく、被告人を、原判示第一の罪につき懲役一〇月及び罰金二五〇〇万円に、同第二第三の罪につき懲役四月及び罰金一〇〇〇万円に処した原判決の量刑は、やむをえないものとして是認でき、これが重すぎて不当であるとはいえない。論旨は理由がない。

よって、刑事訴訟法三九六条により、本件控訴を棄却すべきものとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 金末和雄 裁判官 井野場明子 裁判官 千葉勝郎)

○控訴趣意書

昭和六二年(う)第七六号

被告人 吉田軍治

昭和六二年五月三〇日

弁護人 岩崎康彌

仙台高等裁判所第一刑事部 御中

一、原判決は、明らかに刑の量定が不当であり、刑事訴訟法第三八一条の理由がある。即ち、

(一) 被告人は、本件について十分反省しており、捜査の段階から本件公訴事実を全て認めている。

(二) 被告人は、本件の本税の支払いを了し、重加算税等の制裁的納税の支払いを現在なしている。

以上のとおりであり、第一の罪につき懲役一〇月及び罰金二五〇〇万円に、第二、三の罪につき懲役四月及び罰金一〇〇〇万円に処する旨の判決は重きにすぎ、執行猶予の判決が相当である。

以上

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